100歳の誕生日

 今日父が100歳の誕生日を迎えた。

背筋も膝も伸びて(曲がっていない)、杖を必要としないで食堂に向かう後ろ姿はとても100歳には見えない。耳が遠くなった障害を除いて、体調も問題は無いという。楽しみは読書。歴史書を好んで読んでいる。母と二人で住む小高い丘の上にある緑に囲まれた高齢者の住まいの自室からは腰越の海が見えて、日当りが良く、長寿が約束された恵まれた環境だ。

記憶力も衰えていないのには感心する。聴力だけ衰えたので、最近はもっぱら筆談で、といってもわたくしからの質問や話題はA4サイズのホワイトボードに書き、答えは口頭で、なるべく話してもらうように促している。うっかりしていると、父からの回答もホワイトボードに書いてくるので「話してください」と笑いながら問うとタイミングがずれるようで、照れ笑いをしながら答えてくれる。多分自分では聞こえないせいだと推測するのだけれど、話のセンテンスが極端に短くなって来た。

「100年と言えば一世紀、様々な歴史を乗り越えて来たご感想は?」と聞くと「ありません。無です。」ややあって「感謝です。」この一言に、私も父の健康で穏やかな日々に感謝の思いでいっぱいになった。