一日早い誕生日を祝う

 父は明日1月5日で99歳を迎える。いまだ他者の手を煩わすことなく、5年前に移り住んだ海の見える鎌倉の高齢者の施設で、母と穏やかな日々を過ごしている。

 3度の食事に食堂に行く以外は、最近はほとんど自室で机に向かって読書を楽しんでいるようだ。耳が遠くなり、補聴器でも聴き取りにくいらしく、私が訪問したときは、用意してあるA4サイズのホワイトボードで筆談が多い。

 いつも季節感のあるシャツやセーターで身繕いをきちっとして、背筋を伸ばし、歩き方もきれいで感心する。散歩が好きだったので、あるとき、杖を贈ることを申し出たら「私には必要ありません。無駄遣いは慎みなさい」と叱られた。

 明日、終日予定が入っている私は、一日早い誕生日のお祝いに父を訪ねた。

プレゼントを何にするか、迷いに迷って、小さなバースデイ・ケーキと年賀のおせんべいで一枚一枚に正月にちなんだ絵柄が施されている軽いものを選んだ。結局食べ物になってしまったが、好きな歴史書や華やかな花々は予想通り既に孫たちから贈られていて部屋の中は賑やかだった。

 腎臓機能が低下していると言って、食事に気をつけて、特に高カロリーのものは口にしないが「年に一度のお誕生日なのだから、今日は特別!」と強引にケーキを切り分けて勧めると、今日は「ありがとうございます。」と素直にお皿を受け取り、遠い昔を思い出しているかのような表情で、ゆっくり口に運んでいた。

 今父は何を考えているのだろう・・・、つい最近まではよく聞いていたが、今日は何も聞かず、凛とした姿を保っている様子を眩しく見ていた。