共生からの防災を考える

 インターネットでJCPRESSを愛読し、中でもこの先生のお書きになる文章は欠かさず読み、そのつど深い共感を得ている東京大学工学部の伊東 乾先生が主催する哲学熟議10+哲学遊戯4 東日本大震災5年メモリアル「共生の防災を考える」に朝から出席。夕方5時過ぎまで、高畑勳監督のドキュメンタリー映画「柳川掘割物語」(1987年)に始まり、追悼・祈念演奏、パネルトークが続く。「共生の防災を考える」のパネリスト・高畑勳監督、長有紀枝立教大学教授、ロバート・ゲラー東京大学教授からそれぞれご専門の人間の安全や地震学のお立場から復興に関するご提案等々を観て聴く内容の濃い時間を過ごした。

 

 中でも私にとっての最大の感心と感動は、福岡県柳川市が取り組んだ地域の復興を高畑監督の視点で語られているドキュメンタリー映画「柳川掘割物語」であった。

 そこには自然との共生を軸に、掘割が存在する地域の歴史と当時これを必要とした背景、そして数百年間守り続けて来た地域住民とその中で育まれてきた人間の英知と暮らしが描かれていて、歴史を学ぶ機会もいただいた。

 時を経て、暮らしの変化が、人間関係を変え、掘割を変えていった。

環境破壊が進み、どん底に落ちた時に、どのように問題を解決するのか?

時代に適応した解決の仕方が真っ先に思い浮かぶのは当然で、それを私たちは進化と呼んで評価をして来た。特に高度成長期は国中が浮かれて、列島改造が叫ばれているなかで、地域と住民は質の高い生活を維持するために「本当に」必要なことは何かを冷静に考え、その結果自ら周囲を説得し、行動して人々を巻き込むリーダーの胆力が試される。

 柳川市の場合は当時、市役所の係長がこの地域に住む人々の幸せと満足感は、長年続けて来た自然との共生を軸とした掘の再生にありと確信し、既に決定していた国や県からの助成金を活用する膨大な近代的改革計画の見直しを市長に訴え、この問題を地域住民の手に取り戻して皆で考え抜いた結果、「水と人間たちとの煩わしい関係」を復活させる。身の回りのことを、一人一人が我がこととして受け止め、人介戦術で行動した結果、当初予算の数分の一で掘割が蘇ったのである。

 そこに住む老いも若きも全員参加の煩わしい地域おこしは、他人任せにしないところが特に良い。その結果、掘割が蘇るだけではなくて、人間関係を取り戻し、地域の文化も蘇って、次の新しい歴史が刻まれてゆく様子に感動した。

 

 東日本大震災5年メモリアル「共生からの防災を考える」中で、共生には日々の煩わしさからは逃れられないが、大きな力に全てを委ねるのではなくて、当事者意識を持って、足元の問題の解決に向かって身直なもの同士が共に考え共に動く。

そこから何かが生まれ、得られたものから次の新たな道へ誘われる・・・それが人間の根源的な営みではないかと考えさせられたひと時であった。