三島由紀夫

 今から15年ほど前、「日本を語るには、最低これだけは読んでおいたほうが良いでしょう」とキリスト教系女子短大の学長ご経験者で日本文学がご専門の教授に10冊の本をご紹介いただいた。その直後に全てを入手して、書庫の一番目につく場所に並べておいたが、何と先月はじめてその中の一冊目を読んだ。

『国旗日の丸』伊本俊二著 中公文庫刊。日の丸の源を辿り、国旗としての正当性を論ずる優れた内容で、もっと早くに読んでおきたかったと悔やまれた。特に日本人の持つ国旗に対する意識と他国との比較や、一時国旗に対する国内論争が起こった理由とその内容、その後曖昧なままで今なお真の解決には至っていないが、それがことさら問題にもならない不思議。同様の現象がそこかしこで現在も起こっているこの国の特殊性をあらためて認識した。あのとき考えるヒントを10個いただいていたのだ!

 

 推薦本2冊目は三島由紀夫の『裸体と衣装』新潮社刊を選んだ。この作家に対する先入観やタイトルに多少の戸惑いを感じながら、昭和33年2月から34年6月まで三島由紀夫が33歳〜34歳にかけて長編小説『鏡子の家』を執筆中の日記であることに関心を持ち、数日かけて読み、ようやく昨夜読了した。

 長編に挑む心構えを自覚しながらも、現実の日々の活動の中での人間関係やストレス、仕事に対する圧倒的なプレッシャー、にも拘らずご自身の意識の明快さと実行力。また、生まれながらの品性と豊かな感性に裏づけされたこれまで知らなかったお人柄の一面を随所に感じて好感を持った。人格形成の裏づけには、ご両親や兄弟との家族関係が大きな影響を与していると家族の大切さをあらためて思った。

 当時のアメリカをはじめとするヨーロッパとの作品のビジネス契約に対する姿勢。この時既にドナルド・キーン氏が三島作品を高く評価していたことなどにも驚かされた。が、何よりも意外でおかしかったのは、この間結婚して15日間の新婚旅行をかなり詳細に記録していることや、1年後には最初のお子様を迎える表現も素直で新鮮で好ましかった。が、日記の後に修められていた死の2年前に書かれた『文化防衛論』には、時代と政治と文化の狭間で苦悩する姿に、あまりにも純粋で思考力が深く知識が豊富なるが故の他者を寄せ付けない孤高の不幸を思った。と同時にいま、ここまで真剣に自国の文化を思い、消滅に至らぬよう防衛しようと考えている人が何人いるのだろうかと自戒を込めて考えさせられた。

 

 今朝の朝日新聞朝刊に『三島由紀夫、新婚旅行先から英文で』アメリカの友人宛に結婚と妻の紹介をした文章と披露宴でのご夫妻の写真が掲載されていて驚いた。

偶然とはいえ ーいま、なぜ三島由紀夫?ー とあまりの偶然にひどく驚いている。